にょこにょこ

嘘を書いた雑巾を配るページ

ロバストマインズ

 諸君! これは革命である! 私はこのちっぽけなアイデアを世紀の大発明としてここに具現化した! なぜ、かつての人々はこの簡単なシステムを取り入れることをせず悩んでいたのか、今では愚かしくすら思う! 馬鹿を言うなと言うな、それは愚者の言葉である。諸君、馬鹿馬鹿とばかり言っていられない。このチップさえあれば、我々は今後、悩む必要など一切無いのである! いや、語弊があるやもしれぬ。悩むことは一切悩ましくないのである!
 このチップには脳神経の形成、及び機能表現メカニズムのあらゆるサンプルが詰まっている。これを取り付けるだけで我々は悩みから解放されるのだ! もう少し詳しく話そう。こいつは脳神経の反応回数、種類を採集する! 採集し、フィードバック回数のログ、負荷の前後情報を全て記録することができる! おわかりだろうか。こいつは人によって様々ある結論の系統、そこに至ったまでの経過の重みを数値化することが出来る発明である! かつて小説家の残した言葉「優れた魂ほどよく悩む」というそれを証明する初の手段なのだ!
 例えば諸君のうち三人ほどが「今が良ければ良い」という哲学を持っていたとする。仮の話である。うち一人は、遊びに明け暮れ、明日の事を考えもしない放蕩者が言ったかもしれぬ。余命いくばくも無い青年が力の限り生きようと発した言葉かもしれぬ。全ての未来は自身が決定し、ならば決定の瞬間である今こそが最も高めるべき時だという、明日の起業家の言葉かもわからない。この装置はそれを判断できるのである! 似た言葉を言おうと似た考えを持っていようと、このチップがその重み――言い換えれば、経験から得た貴重な意見かどうか、悟りと言うに足る含蓄があるかを全て数字に置き換えることが可能なのだ! 当然、全てにおいて最も悟りに近づいた人間を探すことも出来よう! これは神探知機とも言うべき大発明なのだ!
 なに、何もそこまで飛躍する必要は無い。諸君! 私はここに提案するものである! このチップの示す数値に価値を与えよ! 悩める魂を重宝する時代よ来たれ、と私は言いたい! どうなるか? システムは激変する! まずは人間関係! いじめにより部屋で一人泣く者の脳を、このチップはちゃんと見ている。辛い青年期を耐え、大きく成長した脳をこのチップはきちんと表出する! 彼には輝かしい未来が待つであろう! 次に就職難! 面接官の人を見る目に疑いを持つ必要はもう無い。しかるべき人が受かり、敗れた者も悩み抜いた後、力を得た脳を再度見てもらうことによって職を得るだろう! 次に序列社会! 先の話にも通じるが、悩み多き青年の時代、若者の価値はぐんぐんと上がっていく。長年培ってきた自身の哲学があるだろう年長者といえ、黙っては居られない。全ての人は等しく戦えるのだ! これによって若者は夢を見、年長者は尊厳と生きがいを得ることができるようになるだろう!
 諸君! 我々は悩む必要は無い! いや、悩みを悩ましく思うことは無いのだ! この発明により、近年年齢を問わず増え続けている自殺者の数は一気にゼロへと転じるであろう! なぜなら、自殺を考えるほどに悩んだとすれば、それはかけがえの無い財産を手にしたに他ならないからである!
 諸君! これは革命である! 何だ? 馬鹿者! 下がっていろ! 今私がどれほど重要なシーンに立っているのかを考えるのだ! えー、諸君! 革命である! 試しに、我らが国の最も権力を持つ者にこいつをつけてやるといい! 彼が、どれほどの思いで我らを導いているのか? 答えは全て値によって示されるのである! あとは引きずりおろすなり崇拝するなり好きにすればよろしい。
 諸君! 馬鹿者、だから下がっていろと……何? チップの被験者が清々しい顔で自殺をした? どうすればいいかだと? 馬鹿者! くだらん事で悩んで居ないで自分で判断しろ!