にょこにょこ

嘘を書いた雑巾を配るページ

 眠れぬ夜の夢


 翌朝に予定がある時に限って思索が楽しくなり、眠れなくなる悪い癖があるようです。深夜だけは辻潤ともハイデガーの言うそれとも違う純粋に楽しい思索が出来るのです。やはりこの時間には何かあると思います。とは言えあんまり眠れないのでは困るので、羊でも数えてみようと思うのですが、するとまた羊が興味深いことを喋り出すので一層眠れなくなるのでした。
 羊が言うには「およそ統計に従えば、諸君の中には少なくとも百人の天才がいなければならぬ」との事でした。以前読んだ本を思い出し、その言葉は宮沢賢治のものだろうと指摘してやると、羊は全部の毛をぴんと伸ばし大層恥ずかしがりました。
 悪いことをしたな、と去り逝く羊の姿を見やった後、次は何が喋り出すやら、と寝っ転がって空を見ます。月も星もみんな喋り出しそうに見えました。
 幾ら何でも、そろそろ眠れる頃かな? と心でのみ尋ねました。まず聞こえているはずなのですが、月や星はこういう瞬間に限って何も言わず、私はまた眠る機会を逸した気分になりました。
 仕方無しに先ほどからひんやりと当たって来る、この風の根っこの部分でもひとつ探ってやろうと、息を止めて耳を立てます。風は随分と遠くから吹いていて、今やっとここまでやって来たのだと解りました。風が「愚問だ」と言いました。たった今私が、そんな距離を吹いてきて、疲れやしないか、そう思った為でした。
 言われて見ればと、急に気持ちが穏やかになります。静かな夜に月の声も風の音も消えました。けれどもやっぱり、ちっとも眠れる心地はしませんでした。

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