にょこにょこ

嘘を書いた雑巾を配るページ

千回魔法

 眠れない、と少女は言った。
 明日も朝早いのだから、それでも頑張って眠らなければだめよ、と母親が答える。しかし少女はうなずいて布団に入っては、五分後戻ってきて言うのだった。眠れない。
 父親もまた眠れない、と言われて答えた。お前が眠れないと、お父さんも心配で眠れないよ。お父さんの為に眠ろうね。しかし少女は眠ることができなかった。
 諦めて少女はおばあちゃんの部屋にいった。寝ていたおばあちゃんは起きあがって言った。
「そんなもん魔法でなんとかすりゃいいじゃないの」
「魔法使えないもん」
「覚えればいいでしょ」
「どうやって覚えるの?」
「千回言うのさ」
 何を聞いてもおばあちゃんはさも簡単そうに答えるのだった。
 おばあちゃんは、どんな人でも魔法が使える事、その方法は簡単で、叶えたい事を千回言うだけだという事、魔女に老婆が多いのは、生まれてからずっと喋ってきたから色々な言葉を千回言っているからだ、という事などを教えて聞かせた。
「寝るだけなら百回でいいかもね。これがもっと難しい願いだと一万回になる」
「やってみる。起こしちゃってごめんなさい」
 たくさんの数を数えて少女は眠りに落ちた。
 それは安らかな眠りだった。

 朝起きて、少女は願いが叶ったのか知りたくて部屋に行く。
 おばあちゃんはよく眠れたようで、元気そうだった。少女が願った、昨日夜中に起こしてしまったおばあちゃんの安眠は、しっかりと叶えられていたようだった。
 その日から少女が眠れなくて夜やってくる事はなくなった。時折朝目覚めては、叶えたい事がたくさんあるのに千回言う前に寝てしまう、とため息混じりにこぼした後で、天使みたいに微笑んだ。