にょこにょこ

嘘を書いた雑巾を配るページ

文学フリマ新刊通販開始のご案内

昨年に引き続き、11/25の文学フリマ東京に参加しました。 ご来場頂いた方、気にしてくれた方、どうもありがとうございました。 こちらで、新刊の通信販売をはじめました。 今回は不思議なようで、そうでもないような、ちょっぴりミステリ風味の中編です。1…

空言図書館

風は穏やかとみえて、捲る頁が波で押し戻される事もなく快適だった。頭の上の海面は、そのままでは眩しすぎる光を半分跳ね返し、半分通してくれるから、調光も抜群で、こんな時はあと五冊、六冊と読んでしまいたい。ほとんど最良の環境。ほとんどと言ったの…

嘘と青のノア

ノアの箱船はちょっとだけ遅かった。雲が地に落ち、溢れた水が緑と灰色を等しく流し埋め尽くす中、光の手がすくい上げたのは、種族も分類も適当、特に人間はひどくて、一切を信じない占い師、寝食忘れがちなダンサー、部屋から一度も出たことがない翻訳者、…

できそこないのオーロラ

オーロラ職人が眠るのは昼の間で、夕方には暖を取る方法をなるべくたくさん用意して、楽器を担いで空へのぼってく。足をばたばたさせないで高くたどり着くには目が必要だ。足のつく空とすっぽぬける空があり、慎重に見分けて、けれど鼻歌は堪えて高度を上げ…

緊急時のてびき

空気が薄くなると体が透けるのだっけ? 落ちる飛行機の中でようやく冷静に死を受け入れつつあったのに、自分の手のひらごしに機内パンフレットの「緊急時のてびき」という字が見えるのだからぎょっとする。 そんなわけないじゃんと笑う妻も点滅していた。当…

フクロウおじさんの本当の姿

羽角公園のすぐ近く、ツツジの中から顔を出したような背の低い街灯の続く先、元気橋の根本にはフクロウおじさんが住んでいて、夜中に子供を攫っては、シチューの具にしているそうだ。 誰が言い出したか、この地区の小学生には有名な話だった。僕はその「から…

止まる心臓の話

心臓がもうすぐ止まる事がわかって目が覚めた。 痛みではなかったと思う。体の中央から指先にかけて、不穏な脈打ちが始まった。夏だったはずだが、目の周りが妙に冷えていて肌寒い。いつまでも黒いので、目を開けていると気がつくのに時間を要す。暗闇に慣れ…

ポカリ戦争と二つの命

ポカリ戦争で僕は一度死んでいる。 それでも今生きているのは奇跡的に生還したからでも何でもない。命が二つあって、一つを失ったら、一つ残ったというだけに過ぎない。 あの時僕は、たった二つの命を、一つ無駄にしたのだ。*** 何にしろ生意気だったには…

カラクリ島の人々

何と呼ぶべきか長々と迷ったのですが、日記にはカラクリ島と記す事にしました。そうは言っても、海の外に別の島が見えるわけでも無いし、太陽さえも歯車で自分の位置を定めているようにさえ見えます。となると、ここは一握りの地面だけを持った水球、カラク…

あじわう

お金の出処など誰も知らない。そう必要で無いのかもしれない。 だが少なくとも服を買う分には要るだろう。というのも藤七柳さんというどこまで苗字でどこから名前かよくわからない人物は、その日々のお出かけ用の服を着替えてではなく情熱で仕上げる。一日街…

ステップの歌

地球の最大円周を通るように線を引いて僕は丸を描いた。裏、表、どちらが内側なのかと悩んでいると、通りすがりの誰かが耳打ちするに、これは丸じゃなくてゼロなんだから、内も外も馬鹿らしいハナシじゃないかという。それもそうか、と思って僕は線を引きな…

ワンダフルライフ

夏の夜、社員研修の電車代をけちって与野から上尾までを自転車で行ったはいいが、帰りが大雨、加えて疲労で漕げども漕げども車輪が全く軽快に地面を蹴らないといった有様だ。そんな紫陽花を這うような例のうずまいた殻の虫のような俺だったのだから、虫にし…

花見の席

何も持たぬまま出かけようと思ったが、あれこれ思いがけない事などしなくとも良い心配をしているうち、ちょっとした旅行にしても充分な財布の中身と、そこそこの重さの鞄までもが着いて来た。見知らぬ駅を降り立って、ひと気の無い飯屋に、行き当たりばった…

日記小説

二〇〇八年四月五日・九千百二十三回目の真夜中 どうもこうも無い、何時も通りとはいえ、書かねばならないから書く。しかも、今日という一日に頭に居座っていた考えごとと言ったら、他ならないこの「日記小説」の事ばかりだったのだ。九千百二十三回目を迎え…

籠とカーテン

カーテンを引きちぎった。眩しい朝日や淡い月明りがぼくを照らすかと思ったのに、そこには真っ白な壁しか無かった。落書きのひとつだって探せないし、他のカーテンを開けて窓を探す気力だってとっくに失われてしまっていた。いつだって逃げ出せるかもしれな…

ワールドエンド

酷くうなされた気がした。目が覚めるとデジタルの時計は4時47分を表していて、三分進んでいる事を考えれば彼がこの世に意識を取り戻したのは4時44分ちょうどだった。何かを考えていたわけではないが頭を掻き毟った後のように、手が油っぽくなっている…

夜おとこ

月が滑るみたいに真横に流れてまばらな雲をかいくぐっているので、見えたり見えなかったりするのでした。恐らく今のところ、天球の支配者は神様でなくその子供へと移り変わっていて、地球儀で遊ぶみたいにぐるぐるとやっているのでしょう。地表で鳴く蛙は音…

猫と道路のルール

道路のペイントの秘密は僕だけが知っている。「止マレ」とか、「40」とかを形作るあの白線は長い間上を見続けたせいか魔力が宿っているらしい。例えば事故が起こったとき、野次馬が去った後の現場で白線をよくよく調べてみると、汚れや風化やこびりついた…

恐怖のダイオウ〜第一話〜

二〇〇三年元旦、恐怖の大王は三年半ほども遅れてやっとやって来た。その頃ノストラダムスは既に「虚言癖のおっさん」と呼ばれ評判も地べたすれすれまで落ちていたので、予言なんて誰も覚えているわけもなく、その地球を揺るがしかねない二つの隕石に気づい…

空だけのこと

登場人物は一人も居ない、空だけの事を話す。僕がなぜ空について話せるかというと、単に知っているからだ。他の言い方を探すのは難しい。教科書に載る知識では決して無いけど、時折知っている者が現れる。人間も、知っている、という状態のことをとにかく後…

歩いた先の偽書

最初の一日、深夜のファミレスで、ワシが面白半分で「こういうの作ってみないか?」と提案したところ、「いい! それいい!」と相手方も物凄く乗り気だったものだから、今日そのための一式を買って来た。完全に深夜テンションが成せる業だった気がしないでも…

鉄の女王

サローラは間もなく王妃になるはずだった。城の庭を二人で歩きながら、自分が王になっていかにこの国を良くしてやるかと話すイェンス王子と微笑んで聞くサローラの仲は誰の目にも揺ぎ無く映ったし、事実それは正しかった。その証拠に二人は、イェンスが王位…

ロバストマインズ

諸君! これは革命である! 私はこのちっぽけなアイデアを世紀の大発明としてここに具現化した! なぜ、かつての人々はこの簡単なシステムを取り入れることをせず悩んでいたのか、今では愚かしくすら思う! 馬鹿を言うなと言うな、それは愚者の言葉である。…

本当にうまく言えない人

ある時僕が、朝のいい時間に起きられなかったうえ、夜の嫌な時間にまで起きていてしまったために、自分の将来がいっぺんで不安の塊になってしまったことがあった。僕が考えるに、朝は玄人の実業家の時間であり、夜は素人の芸術家の時間である。朝は何にせよ…

どちらかが夢を見る幸せを

恐れられる男と見くびられる男がいた。恐れられる男――サベドは富、名声、権力、そして威厳までもを生まれながらにして持っていたようである。物心付いた頃から彼の周囲には殺気とも似た刺々しい雰囲気が漂っていて、それに触れる痛みから逃れるように人は一…

万能の天才のアリバイ

「いい加減俺をネタに小説を書くのをやめてくれないか」 私一人しか居ないはずのこの書斎で後ろから声をかけられながら、私はまたか、とため息をついた。振り返らなくても誰なのかはわかっていた。声による判断だけでなく、まずこんな事が可能な人物は一人し…

地球のビール

お父さんはお酒が本当に大好きで、ぼくへのおみやげのアイスキャンディーやお母さんが頼んでいたレタスを買い忘れても、お酒を買い忘れることだけは絶対に無かったんだ。お母さんは「夕飯の予定が台無し!」なんて言っていたけど、ぼくはその事を少しも恨ん…

 尾長侍

尾長侍と聞いたら果たして、諸君らは何かしら思い当たる事があるだろうか? ない。ならば諸君の町は歩いて行けぬ離島や雲上の類であるか、もしくは人を拒む谷の中にあるのだろう。いや、斯様な地に生きても、遠くない日に御目に掛かることはきっとあろう。何…

 夜昇る

祖父は月に一度、頂いた写真や本の切り抜きをまとめて糊で貼り付け、アルバムのようなものをこしらえるのでした。その時も一月かけて溜まったあれこれを切ったり貼ったりして、そのまま一休みしていたのだと思います。畳に置いてあったそれらを、私はちょっ…

 進んでいく夢

きっかけというものが本当にあるのか僕は疑わしく思っている。誰かが落ちたリンゴを見て何か閃いたとしても、それは培ってきた様々の出来事が、ようやく思いつくべき人に思いつかせただけなのだ。そこに唐突な発生があるわけじゃなく、きちんと連続性を持っ…